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神戸地方裁判所 昭和61年(ワ)1798号 判決 1989年2月21日

原告

松本幹雄

ほか一名

被告

有限会社十全製袋加工所

ほか一名

主文

一  被告等は、原告松本幹雄に対し、各自金三五〇六万三三四八円及びこれに対する昭和五八年七月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告等は、原告松本やゑに対し、各自金一七六万円及びこれに対する昭和五八年七月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告等の被告等に対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告等の、その一を被告等の、各負担とする。

五  この判決は、原告等勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告等

1  被告等は、原告松本幹雄に対し、各自金六九八五万五三五一円及びこれに対する昭和五八年七月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告等は、原告松本やゑに対し、各自金五五〇万円及びこれに対する昭和五八年七月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告等の負担とする。

4  仮執行の宣言。

二  被告等

1  原告等の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告等の負担とする。

第二当事者双方の主張

一  原告等の請求原因

1  別紙事故目録記載の交通事故(以下本件事故という。)が発生した。

2  被告会社は、被告(加害)車の保有者として、自賠法三条により、被告山田は、本件事故当時右車両の運転手であり、速度超過と前方不注意の過失により本件事故を惹起したものであるから、自賠法三条又は民法七〇九条のいずれかにより、各自、原告等の本件傷害を賠償する責任を負つている。

3(一)  原告幹雄は、本件事故により、外傷性背髄損傷(第六胸髄損傷)の傷害を受け、第六胸髄節以下完全横断麻痺の状態であり、第六胸髄節は知覚鈍麻、第七胸髄節以下は知覚脱失し、両下肢筋力と体幹筋力下半分は消失している。同人は、歩行、立位いずれも不能で、坐位すら満足にできずほとんど寝たきりの状態のため、じよく瘡も発症している。又、同人は、背髄損傷による神経因性膀胱のため排尿障害を来たし、又排便障害も発生している。

同人の右受傷は、昭和六一年三月三一日、症状固定し、障害等級一級該当の後遺障害が残在した。

(二)  原告幹雄の本件受傷治療の経過は、次のとおりである。

(1) 金沢三宮病院 昭和五八年七月六日から同五九年四月二三日まで二九三日間入院。

(2) 山田赤十字病院 昭和五九年四月二三日から同六〇年四月一四日まで三五五日間入院。

(3) 兵庫県玉津福祉センターリハビリテーシヨンセンター 昭和六〇年四月一五日から同六一年三月三一日まで三五一日間入院。

付属中央病院(以下単に玉津リハビリセンター付属病院という。) 昭和五八年一一月二八日から同六〇年四月一四日まで三日通院。

4  原告等の本件損害

(一) 原告幹雄

(1) 入院看護費 金四九九万二九四二円

(イ) 金沢三宮病院分 金三一七万一八〇〇円

原告幹雄の右病院における入院期間が二九三日であることは、前叙のとおりである。しかして、右入院期間における入院看護(付添看護。以下同じ。)費は、次のとおりである。

(a) 職業的付添人分 金二五八万五八〇〇円

(b) 右入院期間は、原告幹雄の容態も安定せず、精神的にも不安な時期であつたため、家族の看護を必要とした。

原告幹雄の要原告やゑは、当時訴外サーミツト工業に勤務し一日金六〇〇〇円の日給を得ていたが、原告幹雄の右看護のため右会社を退職し、右看護に当つた。

原告やゑの右看護費は、一日当り金二〇〇〇円で合計金五八万六〇〇〇円となる。

(c) したがつて、原告幹雄の本件事故と相当因果関係に立つ本件損害(以下単に本件損害という。)としての入院看護費の総額は、右(a)、(b)の合計額金三一七万一八〇〇万円となる。

(ロ) 山田赤十字病院分 金一四二万円

原告幹雄の右病院における入院期間が三五五日であることは、前叙のとおりであるところ、右病院においては原告やゑのみが原告幹雄の付添看護に当つた。

そこで、本件損害としての右入院看護費は、一日当り金四〇〇〇円の割合として合計金一四二万円となる。

(ハ) 玉津リハビリセンター付属病院分 金四〇万一一四二円

原告幹雄の右病院における入院期間が三五一日であることは、前叙のとおりである。

右病院は、ほぼ完全看護体制をとつており、原告幹雄に対する付添看護を必要としなかつたが、ただ一週間の内大便排出日である火曜日と土曜日、入浴日である火曜日には、家族の付添を必要とし、原告やゑがその任に当つた。

原告やゑは、右付添のため、国鉄(当時の名称。以下同じ。)新長田駅から国鉄明石駅まで国鉄(往復金五六〇円)、国鉄明石駅から右病院までバス(往復金三〇〇円)を、それぞれ利用した。

したがつて、右期間内の本件損害としての入院看護費は、右交通費を含めて一日当り金四〇〇〇円の割合が相当であり、その総額は、金四〇万一一四二円となる。

4000円×351日×2/7=40万1142円

(ニ) よつて、原告の本件入院看護費の総額は、右(イ)、(ロ)(ハ)の合計金四九九万二九四二円となる。

(2) 入院雑費 金九九万九〇〇〇円

本件入院雑費は、原告幹雄の本件背髄損傷による排尿排便障害等の特殊事情のため一日当り金一〇〇〇円を相当とするところ、同人の入院期間の合計が九九九日であることは前叙のとおりであるから、右入院雑費の合計額は、金九九万九〇〇〇円となる。

(3) 休業損害 金一一〇四万〇七二九円

(イ) 原告幹雄は、本件事故当時、訴訟関西信用金庫の営業に勤務(昭和五五年二月一日入社)して集金業務に従事していたが、右入社前は自宅(神戸市長田区戸崎通一丁目五番六号)で手袋・靴下・タナル等の綿製品を小売店に販売する卸売業を営んでおり、右関西信用金庫へ就職後も、勤務終了後や土・日曜日に右卸売業を続けていた。

(ロ)(a) 原告幹雄の右関西信用金庫における本件事故前三か月の給与は、基本給金五二万六五〇〇円、付加給金三万七四一五円の合計金五六万三九一五円(一日当りの平均賃金金六二六五円)であり、賞与は、昭和五八年冬期が金三五万一〇〇〇円、同五九年春期が金八万七八〇〇円、同五九年夏期が金三五万一〇〇〇円支給予定であつた。

したがつて、原告幹雄の右関西信用金庫からの年収は金三〇七万六五二五円となる。

(6265円×365日)+35万1000円+8万7800円+35万1000円=307万6525円

(b) 原告幹雄は、右関西信用金庫からの右収入のほかに、前叙卸売業による利益を得ていたところ、昭和五七年度の右利益は金二一〇万二六一〇円であつた。しかし、同人は、現在、右利益を証明する資料を失つている。

(c) 原告幹雄の右収入状況から、同人(本件事故当時五八歳)の総収入額を算定するには賃金センサスによらざるを得ないところ、昭和五八年度賃金センサス第一巻第一表産業計企業計男子労働者学歴計五五歳から五九歳の平均賃金に基づくと、原告幹雄の年収は、金四〇三万三九〇〇円となる。

(ハ) 原告幹雄の右年収を基礎とし、同人の本件休業損害(休業期間九九九日)を算定すると、金一一〇四万〇七二九円となる。

403万3900円×999/365=1104万0729円

(4) 後遺障害による逸失利益 金二六五七万九三六七円

(イ) 原告幹雄の本件受傷が昭和六一年三月三一日(同人の年令六〇歳)症状固定し、障害等級一級該当の後遺障害が残存したこと、同人の右時点における年収が金四〇三万三九〇〇円であることは、前叙のとおりである。

(ロ) 原告幹雄の就労可能年数は八年間で、その労働能力喪失率は一〇〇パーセントである。

(ハ) 右各資料に基づき、原告幹雄の本件後遺障害に基づく逸失利益の現価額をホフマン式計算方法にしたがつて算定すると、金二六五七万九三六七円となる(ただし、ホフマン係数は六・五八九)

403万3900円×1×6589=2657万9367円

(5) 慰謝料 金二三五〇万円

(イ) 入通院分 金三五〇万円

原告幹雄の本件受傷の部位、身体的症状、その入通院期間等については前叙のとおりであり、右各事実に基づけば、同人の本件入通院分慰謝料は、金三五〇万円が相当である。

(ロ) 本件後遺障害分 金二〇〇〇万円

原告幹雄に障害等一級該当の後遺障害が残存することは、前叙のとおりであり、右事実に基づけば、同人の本件後遺障害分慰謝料は、金二〇〇〇万円が相当である。

(6) 将来の看護費 金二三九三万六七〇〇円

(イ) 原告幹雄は、現在、便所使用は原告やゑの介添で何とかできるようになつたが、風呂の湯舟につかることは原告やゑの力だけでは不可能であり、同人等の四男弘や二男和己の協力を必要とする。二男和己は、その度に同人が営む理髪業(神戸市長田区において開業中)を休まなければならない。

(ロ) 原告幹雄は、現在でもなお、前叙玉津リハビリセンター付属病院へ二週間に一度の割合で尿を浄化する薬と下半身の疼痛を鎮める薬を貰いに行かねばならないが、同人自らから右病院へ赴くことは不可能であるし原告やゑも、原告幹雄から長時間離れることができないため、二男和己がその任に当らざるを得ない。

(ハ) 右事情を考慮すると、原告幹雄の将来の看護費としては一日当り金五〇〇〇円の割合とするのが相当である。

(ニ) 原告幹雄の本件症状固定時における余命年数は一九・二四年(昭和五九年簡易生命表による)である。

(ホ) 右各資料に基づき、原告幹雄の将来の看護費の現価額をホフマン式計算方法にしたがつて算定すると、金二三九三万六七〇〇円となる(ホフマン係数は、一三・一一六)。

5000円×365日×13116=2393万6700円

(7) 将来の雑費 金一四一万六五二八円

(イ) 原告幹雄は、現在、神経因性膀胱のため、カテーテルを使用した間欠自己導尿法によらざるを得ず、尿路感染症は必発であり、又排便障害も来たしている。

(ロ) 同人の右状況から、将来次の品物を必要とし、その費用(ただし、一か月分の価格)は次のとおりである。

(a) 脱脂綿 約金二〇〇〇円

(b) 大便を指で掻きだすための手袋 約金二〇〇〇円

(c) おむつ 約六〇〇円

(d) 導尿のためのビニール袋 約金一〇〇〇円

(e) 二週間に一度薬を取りに行く交通費 約金二〇〇〇円

合計 約金七六〇〇円

他に尿路感染症が発症した場合の通院交通費等を加え、同人の将来の雑費は、一か月金九〇〇〇円が相当である。

(ハ) 原告幹雄の余命年数が一九・二四年であることは、前叙のとおりである。

(ニ) 右各資料を基礎として、原告幹雄に要する将来の雑費の現価額をホフマン式計算方法にしたがつて算定すると、金一四一万六五二八円となる(ホフマン係数は一三・一一六)。

9000円×12月×13.116=141万6528円

(8) 家屋改造費 金一一九万二五〇〇円

(イ) 原告幹雄に本件後遺障害が残存することは前叙のとおりであるが、右後遺障害のため、同人の居住する家屋では、部屋の入口を車椅子で通行出入できるようにし、便所や風呂場を広げる必要がある。

しかして、原告幹雄は、昭和六一年三月三一日、前叙病院を退院し、同人の四男弘宅に身を寄せたが、同人宅は、狭隘のうち、原告幹雄ば居住するのに必要な右改造をすることが不可能な構造の家屋であつて、右改造を強行すれば巨額な改造費を要することが明らかになつた。

そこで、原告幹雄は、右弘宅の近隣に新居を購入することを考え、現住所地に建築中の建売住宅を見出しこれを購入した。右建物は、建築途上であつたため、敷居の除去、風呂場や便所の改造について注文を出し右注文に応じた構造をとることができた。

しかし、右建物の購入代金については、右のとおり種々の注文改造を行つたとの理由で、売主の言い値(広告の価格金二三八五万円)を認めざるを得なかつた。

通常、不動産業界では、広告価格で対象物件を購入する者はなく、最低右広告価格の五パーセント程度の減額は常識となつていて、売主側も右値引を見越して値段をつけている。

したがつて、本件における家屋改造のための損害額は、右新居購入代金二三八五万円の五パーセントに当たる金一一九万二五〇〇円を下らないというのが相当である。

(9) 以上、原告幹雄の本件損害総額は、金九三六五万七七六六円となる。

(10) 損害の填補 金二九八〇万二四一五円

原告幹雄は、本件事故後、被告会社(保険会社を含む)から合計金四三七万三六〇〇円、労災保険金合計金五四二万八八一五円(休業損害金と傷病年金の合計額)、自賠責保険金金二〇〇〇万円、総合計金二九八〇万二四一五円を受領した。

そこで、右受領金合計金二九八〇万二四一五円を本件損害の填補として、原告幹雄の本件損害総額金九三六五万七七六六円から控除すると、右控除後の同人の本件損害額は、金六三八五万五三五一円となる。

(11) 弁護士費用 金六〇〇万円

原告幹雄は、被告等が本件損害の賠償を任意に履行しないため、弁護士である原告等訴訟代理人に本件訴訟の提起追行を委任し、その際弁護士費用金六〇〇万円を支払う旨約した。

(12) かくして、原告幹雄の本件損害総額は、金六九八五万五三五一円となる。

(二) 原告やゑ

(1) 慰謝料 金五〇〇万円

原告やゑは、原告幹雄の妻であり、原告幹雄が本件事故により受傷して以来同人の看病に当つたが、同人の右受傷が症状固定し前叙後遺障害が残存するようになつたため将来にわたつて同人の看護の任を全うせざるを得ない。原告やゑは、原告幹雄が完全に半身不随となり、排尿排便障害に悩む姿を見て絶望感にさいなまれており、夜中に自ら三時間毎に起きて原告幹雄の導尿の援助をしなければならない等精神的肉体的苦痛は計り知れない。

これは夫である原告幹雄の死亡以上の精神的苦痛であるから、民法七一一条の準用により、妻である原告やゑ固有の慰謝料が認められるべきであつて、その金額は、金五〇〇万円を下らない。

(2) 弁護士費用 金五〇万円

原告幹雄の場合と同じく原告やゑは、弁護士である原告等訴訟代理人に本件訴訟の提起追行を委任する際、弁護士費用金五〇万円を支払う旨約した。

(3) 以上のとおり、原告やゑの本件損害合計額は、金五五〇万円となる。

(三) よつて、原告等は、本訴において、被告等に対し、各自原告幹雄につき本件損害金六九八五万五三五一円、原告やゑにつき本件損害金五五〇万円及び右各金員に対する本件事故当日である昭和五八年七月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による各遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する被告等の答弁及び抗弁

1  答弁

請求原因1の事実は認める。同2中被告会社が加害車(被告車)の保有者であること、被告山田が本件事故当時右車両の運転者であつたことは認めるが、同2のその余の事実及び主張は争う。同3(一)中原告幹雄が本件事故により受傷し、右受傷が症状固定して障害等級一級に該当する後遺障害が残存したこと、同人が本件受傷治療のためその主張する病院へ入院したことは認めるが、同3のその余の事実は全て不知。同4(一)(1)中原告幹雄が金沢三宮病院へ入院中職業的付添人が付添つたことは認めるが、同(1)のその余の事実は不知、その主張は争う。仮に原告やゑが付添つていたとしても、右のとおり職業的付添人が付添つている以上、原告やゑの右付添は本件事故と相当因果関係がない。原告幹雄が山田赤十字病院に入院していた当時、仮に、原告やゑが付添つていたとしても近親者の付添は一日当り金三二〇〇円が相当である。又、原告幹雄が玉津リハビリセンター附属病院へ入院中原告やゑが付添つたとしても、右病院は完全看護体制をとつているということであるから、同人の右付添は本件事故と相当因果関係がない。更に、付添婦の交通費は認められない。同(2)中原告幹雄が本件受傷治療のため入院したことは認めるが、その余の事実は不知。同(3)中原告幹雄が本件事故当時訴外関西信用金庫に勤務していたことは認めるが、同(3)のその余の事実及び主張は争う。原告幹雄の収入は右信用金庫から受ける給与のみで、その他の所得は一切なかつた。原告幹雄が主張する右勤務以外の営業は、同人が行つていたものでなく、同人の家族が行つていたもので、しかも、右営業による利益はなかつた。そのため、市民税所得税も右信用金庫からの支給に対する課税だけであつた。同(4)(イ)中原告幹雄の本件受傷が症状固定し障害等級一級該当の後遺障害が残存することは認めるが同(3)のその余の事実及び主張は争う。六〇歳以上は毎年(年齢別平均賃金)、又勤務者であれば定年後減額されることは公知の事実である。したがつて、六〇歳の所得を基準に将来の逸失利益を算定することは、原告幹雄において不当利得することになり、少なくとも現実の所得又は統計の場合に、毎年(又統計五年間)減額されているから、これに基づいて算定すべきである。同(5)中原告幹雄が本件受傷治療のためその主張の各病院に入院したこと、同人に障害等級一級該当の後遺障害が残存することは認めるが、同(5)のその余の事実及び主張は争う。同(6)の事実全て不知。原告幹雄は、原則として付添を要しない状態である。仮に、例外的に付添を要する場合があつても、時間的に平均すると一週間に一日以内である。しかして、近親者の付添費は一日当り金三二〇〇円の割合が相当である。同(7)の事実及び主張は全て争う。後遺障害に基づく将来の雑費は、事故と相当因果関係に立つ損害と認められない。これは、当然日常生活に要する費用であるから、将来の逸失利益から支払われるべきものである。同(8)の事実及び主張は争う。仮に、原告幹雄においてその主張にかかる費用を要したとしても、右費用は本件事故と相当因果関係に立つ損害ではない。同人の家族の判断で別途に生じた費用であつて、本件後遺障害から何人においても生じる費用でないからである。同(9)の主張は争う。同(10)の事実は認めるが、その主張は争う。被告会社が本件事故後原告幹雄に支払つた額が合計金四八八万四三六〇円であることは後叙主張のとおりである。同(11)の事実及び主張は争う。同(12)の主張は争う。同(二)(1)、(2)の各事実及び主張は全て争う。同(3)の主張は争う。同(三)の主張は争う。

2  抗弁

(一) 過失相殺

(1)(イ) 本件事故は、交差点の出合頭の衝突であるが、被告車の進路に左方優先進行権がある。

(ロ) 原告車は原動機付自転車であるから、進行道路の左側端を通行しなければならなかつた(道路交通法一八条)のに、原告車は、自車の対向車線上中央付近を進行し、本件事故を惹起した。原告車がその進路左側端を進行していれば、右事故は発生しなかつた。

(ハ) 原告幹雄は、本件事故の発生直前直後においても全くブレーキによる制動措置ならびにハンドルによる回避措置をとつていない。右各措置は、車輌運転者の最も重要かつ基本的な義務であり、原告幹雄が本件事故発生直前右各措置をとつていれば、本件事故は発生しなかつた。

(ニ) 原告幹雄は、本件事故当時道路交通法で義務付けられているヘルメツトを着用していなかつた。

(2) 以上のとおり、本件事故には原告幹雄の重大な過失も寄与しているから、同人の右過失は、原告等の本件損害額を算定するに当り斟酌されるべきである。

しかして、原告幹雄の右過失割合は、六〇パーセント相当である。

(二) 損害の填補

原告幹雄は、本件事故後、本件損害につき次の各金員を受領している。右受領金は、同人の本件損害の填補である。

(1) 被告会社(保険会社を含む。)分 金四八八万四三六〇円

(イ) 治療費 金三〇万三六六〇円

(ロ) 看護費用 金二五九万二九〇〇円

(ハ) 内金 金一九八万七八〇〇円

合計 金四八八万四三六〇円

(2) 自賠責保険金 金二〇〇〇万円

(3) 訴外関西信用金庫分

(ただし、右金庫が労災受領を清算後)

(イ) 金四〇二万八七九〇円

(ロ) 金六五一万一八八八円

合計 金一〇五四万〇六七八円

(4) 労災保険給付(原告幹雄に直接支払分)

(イ) 休業補償 金二二九万四八六五円

(ロ) 休業特別給付 金七六万四九五五円

(ハ) 療養の費用 金三四万八五〇〇円

(ニ) 傷害特別支給金 金一一四万〇〇〇〇円

(ホ) 傷害補償年金 金二〇八万七三〇〇円

(ヘ) 傷病特別年金 金四一万七九〇〇円

(ト) 定額障害特別支給金 金二二八万〇〇〇〇円

(チ) 傷害補償年金 金二一三万五五〇〇円

(リ) 障害特別年金 金四四万七一〇〇円

合計 金一一九一万六一二〇円

(5) 以上の総計は、金四七三四万一一五八円となる。

したがつて、前叙過失相殺後の原告幹雄の本件損害は、右損害の填補により存在しなくなつた。

三  抗弁に対する原告等の答弁

1  過失相殺関係

抗弁事実中原告車と被告車が衝突して本件事故が発生したことは認めるが、その余の抗弁事実は、全て否認し、その主張は全て争う。原告幹雄の本件事故発生に対する過失はない。本件事故は、原告幹雄が原告車のハンドルを右に切つて衝突を避けようとしたが避けきれず、右車両の左後部を被告者の右前部から追突されて発生した。被告等主張の左方車優先は本件には妥当しない。

2  損害の填補関係

(一) 抗弁事実中原告幹雄が本件事故直後被告等主張の金員を受領したことは認める。

(二) しかしながら、次の各金員は、本件損害の填補たり得ない。したがつて、原告幹雄の本件受領金中次の各金員を除く金員については、本件損害の填補となることを認める。

(1) 訴外関西信用金庫分

(イ) 金四〇二万八七九〇円は、原告幹雄に対する右信用金庫からの給与仮払であるところ、同人は、右金員の全てを右信用金庫に返済した。

(ロ) 金六五一万一八八八円は、原告幹雄において右信用金庫から本件事故に対する見舞金として交付を受けたものである。即ち、右金員は、右信用金庫と訴外日本火災海上保険株式会社との間における労災総合保険契約に基づく法定外後遺障害保険金金一〇〇〇万円の一部であるところ、右保険契約は、右信用金庫が従業員に対する福利厚生の一環として、従業員が労災事故に遭遇した場合、当該従業員に支払うべき見舞金の財源確保のためのものである。したがつて、かかる法定外補償保険金は、政府労災保険金と異なり、本件の如き第三者行為による労災事故の場合には、損害填補の性格を有さず、本件損害の填補の対象とはならないというべきである。

(2) 労災保険給付分

右保険給付中、少くとも、

(イ)休業特別給付金金七六万四九五五円、(ロ)傷害特別支給金金一一四万円、(ハ)傷病特別年金金四一万七九〇〇円、(ニ)定額障害特別支給金金二二八万円、(ホ)障害特別年金金四四万七一〇〇円、合計金五〇四万九九五五円

は、本件損害填補の対象にならない。藍し、右各金員は、労働福祉行政の一環として支給されるものであつて、損害の填補を目的としたものでないからである。

(三) なお、仮に、原告幹雄の本件損害額の算定に当り同人の過失が斟酌されるとしても、右過失相殺の方法については、右損害額から政府労災給付金を控除した後に過失相殺を行うべきである。

第三証拠関係

本件記録中の、書証、証人等各目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一1  請求原因1の事実、同2中被告会社が被告車の保有者であること、被告山田が本件事故当時右車両の運転者であつたこと、同3(一)中原告幹雄が本件事故により受傷し、右受傷が症状固定して障害等級一級に該当する後遺障害が残存したこと、同人が本件受傷治療のため金沢三宮病院山田赤十字病院玉津リハビリセンター付属病院へ入院したことは、当事者間に争いがない。

2(一)  右事実に基づくと、被告会社には、自賠法三条に基づき、原告等が本件事故により蒙つた後叙損害を賠償する責任がある。

(二)(1)  成立に争いのない甲第三九ないし第四三号証、第四四号証の一ないし一〇、第四五、第四六号証、第五一号証、原告幹雄本人、被告本人の各尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、被告山田は、本件事故直前、本件交差点にさしかかつた際、右交差点は左右の見とおしが困難であるから一時停止又は徐行して左右の道路の安全を確認すべき業務上の注意義務があるのにもかかわらず、これを怠り時速約二〇キロメートルで漫然右交差点に進入した過失により右事故を惹起したことが認められ。右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(2)  右認定事実に基づけば、被告山田には、民法七〇九条に基づき、原告等が本件事故により蒙つた後叙損害を賠償する責任がある。

なお、原告等は、被告山田の本件責任原因として自賠法三条に基づく事実と民法七〇九条に基づく事実とを選択的に主張していると解されるので、右認定説示のとおり、被告山田の右責任原因を民法七〇九条に基づいて肯認する以上、自賠法三条の該当性については特に判断の必要を見ない。

(3)  しかして、被告等の本件損害賠償責任は、相互に不真正連帯関係に立つと解するのが相当であるから、被告等は連帯して原告等の本件損害を賠償する責任を負うというべきである。

(三)(1)  成立に争いのない甲第四七号証に基づくと、原告幹雄は、本件事故により、頭部外傷第Ⅱ型、頭部座創、胸腔内出血、右第六助骨々折、背随損傷、右肩甲骨々折、第六、七胸椎圧迫骨折の傷害を受けたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(2)  成立に争いのない甲第一、第二号証、第六ないし第一六号証、原告幹雄本人、原告やゑ本人の各尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。

(イ) 原告幹雄の治療経過

(a) 金沢三宮病院 昭和五八年七月六日から同五九年四月二三日まで二九三日間入院

(b) 山田赤十字病院 昭和五九年四月二三日から同六〇年四月一四日まで三五五日間入院

(c) 玉津リハビリセンター付属病院 昭和六〇年四月一五日から同六一年三月三一日まで三五一日間入院

なお、原告等は、原告幹雄において昭和五八年一一月二八日から同六〇年四月一四日まで右病院へ三日間通院した旨主張するところ、右三日間通院の事実は、これを認めるに足りる証拠がない。

(ロ) 原告幹雄の本件後遺障害

(a) 原告幹雄の本件受傷は、昭和六一年三月三一日症状固定した。

(b) 右後遺障害の内容

(Ⅰ) 傷病名

第六胸髄損傷、神経正膀胱。

(Ⅱ) 自覚症状

両下肢の自動運動がない。歩行、立位不能。排尿排便障害。坐位平衡が悪い。仙骨部にじよく瘡ができやすい。

(Ⅲ) 他覚症状及び検査結果、精神・神経の障害

第六胸髄節、知覚鈍麻。第七胸随節以下末梢に知覚脱失。両下肢の筋萎縮(癖用性萎縮)。両下肢筋力全て消失。体幹筋力下半分消失。第六、七胸椎圧迫骨折(レントゲン所見)。両下肢の自動運動は全く認めず。歩行立位不能。坐位平衡不良(ベツト上での坐位が困難)。仙骨部にじよく瘡瘢瘡あり。日常生活上車椅子の生活であり、介助を要する。

(Ⅳ) 臓器の傷害

尿意なく正常の排尿不可能。時間的に導尿を行う(尿失禁あり)。排便障害あり、下剤浣腸を要す(時々便失禁あり)。

(Ⅴ) 関節機能傷害

関節名 運動の種類 他動 自動

股 屈曲 左右一二〇度

伸展 左右〇   } 左右不可能

膝 屈曲 左右一三五度

伸展 左右〇   } 右同

足関節 背屈 左右〇

底屈 左右四五度} 右同

足趾ⅠⅠⅤ    不可能

(Ⅵ) 回復の見込みなし。

二  原告等の本件損害

1  原告幹雄

(一)  入院付添看護費 金四四八万〇四〇〇円

(1) 原告幹雄の本件受傷内容、その治療経過は、前叙認定のとおりである。なお、同人が金沢三宮病院に入院中職業的付添人が付添つたことは、当事者間に争いがない。

(2) 前掲甲第七ないし第一六号証、原告やゑ本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告幹雄が金沢三宮病院に入院した当時、原告やゑが、右病院側より、原告幹雄の本件受傷内容から職業的付添人だけでは充分な付添看護を行えないし、本件事故直後で原告幹雄の精神状態も不安定なので妻である原告やゑにも付添うよう要請され、原告やゑも付添看護に当つたこと、原告幹雄が山田赤十字病院に入院していた当時、右病院でも、原告やゑが、右病院より、原告幹雄の入院期間中同人の付添看護を要請され、原告やゑが原告幹雄に付添看護に当つたこと、玉津リハビルセンター付属病院は完全看護体制をとつているが、原告幹雄が右病院へ入院していた当時、一週間のうち火曜日と土曜日が同人の大便排出日、火曜日が同人の入浴日と定められていたところ、原告やゑは、右病院側より、原告幹雄の右大便排出日と入浴日には右病院の右完全看護を完うすることができないので、特に、右該当日には原告やゑに付添介助に当つて欲しい旨の要請を受けたこと、そこで、原告やゑは、右病院側の右要請に基づき、右該当日に原告幹雄の付添介助に当つたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(3) 右当事者間に争いのない事実及び右認定各事実に基づき、本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下単に本件損害という。)としての入院付添看護費を次のとおり認めるのが相当である。

(a) 金沢三宮病院分 金二八八万六九〇〇円

(Ⅰ) 職業的付添人分 金二五九万二九〇〇円

原告幹雄が本件事故後右付添費として右金員を受領したことは、後叙のとおり当事者間に争いがない。

(Ⅱ) 原告やゑ分 金二九万四〇〇〇円

前叙認定にかかる原告幹雄の本件受傷の部位程度、右病院側からの要請の存在及びその内容等から、原告やゑの重畳的付添の必要性を認めるのが相当であるところ、本件損害としての右付添看護費は、一日当り金二〇〇〇円の割合で一四七日分合計二九万四〇〇〇円と認めるのが相当である。

(Ⅲ) 右(Ⅰ)と(Ⅱ)の合計額は、金二八八万六九〇〇円となる。

(b) 山田赤十字病院分 金一二四万二五〇〇円

一日当り金三五〇〇円の割合による三五五日分。

(c) 玉津リハビリセンター付属病院分 金三五万一〇〇〇円

一日当り金三五〇〇円で三五一日の七分の二分。

なお、原告等は、右病院への交通費をも含めて右付添看護費を主張するが、右交通費は本件損害と認めない。

(d) 以上、本件入院付添看護費の合計額は、金四四八万〇四〇〇円となる。

(二)  入院雑費 金九九万九〇〇〇円

一日当り金一〇〇〇円の割合による九九九日分の合計金九九万九〇〇〇円を本件損害としての入院雑費と認める。

(三)  休業損害 金一一〇四万〇七二九円

(1) 原告幹雄の本件入院期間が九九九日であることは、前叙認定のとおりである。

(2) 前掲甲第四六号証、成立に争いのない甲第一七ないし第二二号証、証人松本和己の証言により真正に成立してものと認められる甲第二四ないし第三五号証、右証人の証言、原告幹雄本人、原告やゑ本人の各尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。

(イ) 原告幹雄は、本件事故当時五八才(大正一四年五月三日生)の健康な男子であつたところ、神戸市中央区下山手通二丁目所在訴外関西信用金庫に勤務し、一か月平均二〇万二九四五円(本件事故前の昭和五八年四月ないし六月分の平均)の給与を得、賞与は、昭和五八年冬期分金三五万一〇〇〇円、昭和五九年夏期分金八万七八〇〇円、同年冬期分金三五万一〇〇〇円の支給を受ける予定であつた。したがつて、原告幹雄の右信用金庫から得る年収は、金三二三万五一四〇であつた。

20万2945円×12+(35万1000円+8万7800円+35万1000円)=243万5340円+79万9800円=323万5140円

(ロ) ところで、原告幹雄は、昭和三〇年頃から、松本商店の屋号で綿製品(タオル、手袋等)の卸売業を営んでいたが、昭和五五年、右営業の業績が芳ばしくなくなつたところから右信用金庫に入社し、右勤務の副業として、右勤務の余暇即ち、土曜日、日曜日、その他の休日に、右営業に従事していた。

しかして、右営業の規模は、本件事故当時、得意先約三〇軒であり、注文受け商品の配達 売買代金の授受等は、原告幹雄が一人で行い、ただ、同人の二男和己(神戸市長田区において理髪業に従事)が、商品の多い時や同人の暇なときに、右配達を手伝つていた。

しかしながら、右営業の本件事故当時における利益については、これを明確に認め得る資料がない。

(ハ) 原告幹雄は、本件入院期間中右信用金庫も欠勤して給与各賞与の支給も全く受け得なかつたし、右営業に従事することもできずその収益をあげることもできなかつた。

(3) 右認定各事実に基づけば、原告幹雄の本件事故当時における収入は、右信用金庫から得る給与各賞与と右営業利益であつたというべきでところ、右金額を確定することは困難というほかはない。

かかる場合には、賃金センサスの平均賃金によつて右収入を算定するのが相当と解されるところ、昭和五八年度賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計男子労働者学歴計五五歳~五九歳の年額平均賃金は金四〇三万三九〇〇円と認められるから、本件においても、原告幹雄の年収は、金四〇三万三九〇〇円と認めるのが相当である。

(4) 右認定説示に基づいて、原告幹雄の本件休業損害を算定すると、金一一〇四万〇七二九円となる。

403万3900円×999/365=1104万0729円

なお、被告等は、原告幹雄において本件休業中右信用金庫から給与を受けていたからその分だけ休業損害は存在しない旨主張するが、右主張については、後叙損害の填補において判断説示する。

(四)  本件後遺障害による逸失利益 金二六五七万九三六七円

(1) 原告幹雄の本件受傷が昭和六一年三月三一日症状固定したこと、同人が当時六〇歳であつたこと、同人の障害等級一級該当の後遺障害が残存すること、右後遺障害の内容、同人の右時点における年収が金四〇三万三九〇〇円と認めるのが相当であることは、前叙認定説示のとおりである。

(2) 原告幹雄本人、原告やゑ本人の各尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告幹雄は、本件後遺障害のため全く就労不可能であること、したがつて、自ら就労による対価を得ることが全くできないことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。(なお、原告幹雄の現在の生活状況については、後叙認定のとおり。)

右認定事実に所謂労働能力喪失率表を参酌し、原告幹雄の労働能力喪失率は一〇〇パーセントと認めるのが相当である。

(3) 原告幹雄の就労可能年数は、八年と認めるのが相当である。

(4) 右認定説示を基礎として、原告幹雄の本件後遺障害に基づく逸失利益の現価額をホフマン式計算方法にしたがつて算出すると、金二六五七万九三六七円となる。(新ホフマン係数は、六・五八九。)

403万3900円×1×6.589=2657万9367円

(五)  慰謝料 金一九四〇万円

(1) 入院分 金三四〇万円

原告幹雄の本件受傷の内容、その治療経過は、前叙認定のとおりである。

右認定事実に基づけば、同人の本件入院慰謝料は、金三四〇万円と認めるのが相当である。

(2) 本件後遺障害分 金一六〇〇万円

原告幹雄に障害等級一級該当の後遺障害が残存すること、右後遺障害の内容は、前叙認定のとおりである。

右認定事実に基づけば、同人の本件後遺障害慰謝料は金一六〇〇万円が相当である。

(3) 右(1)、(2)の合計額は、金一九四〇万円となる。

(六)  将来の看護費 金一五三一万九四八八円

(1) 原告幹雄に障害等級一級該当の後遺障害が残存すること右後遺障害の内容、就中右内容につき将来改善の見込みのないこと等は、前叙認定のとおりである。

(2) 証人松本和己の証言、原告幹雄本人、原告やゑ本人の各尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告幹雄は、本件症状固定後、自らの意思で排尿排便をすることができないため、右排尿排便には必ず第三者の介護(排尿の場合は、三時間毎に原告幹雄を助け起こし消毒した導尿装置を使用して行い、排便の場合は、三日に一日の割合で、同人に排便用薬を飲用させ、便所で長時間にわたつて排便を待ち、そのうえ排便のない場合は、第三者が座薬や浣腸剤を使用して排便を促し、それでも効果がない場合手袋を使用して掻便しなければならない。)を要すること、原告幹雄が入浴する際には、同人の体重と同人自ら体を動かすことが全くできないため、第三者の、しかも、普通人以上の力を持つた者の介護を必要とすること、じよく瘡発生予防のため長時間にわたる車椅子の使用を避けねばならず、ベツトに入つていても右予防のため横臥しかできないこと、更に、右横臥していても、右予防のため、絶えず体位を変えねばならず、それを行うのに第三者の介護を必要とすることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(3) 右認定各事実に基づけば、原告幹雄については、右認定の限りで終生日常生活において第三者の介護を必要とし、そのための費用支出の蓋然性が高いというのが相当であるから、原告幹雄の将来の看護費も、その範囲内で本件損害と認めるのが相当である。

(4) しかして、本件損害としての右看護費の金額は、一日当り金三二〇〇円の割合で一九年分(昭和六一年度簡易生命表によれば、同人の平均余命は一九・七〇年と認められる。)と認められるのが相当である。

(5) 右認定説示を基礎として、原告幹雄の将来の看護費の現価額をホフマン式計算方法に基づき算定すると、金一五三一万九四八八円となる。(新ホフマン係数は、一三・一六六)

3200円×365×13.166=1531万9万9488円

右説示に反する当事者双方の主張は、当裁判所のとるところでない。

(七)  将来の雑費 金四四万〇六九八円

(1) 原告幹雄の本件後遺障害の残存及びその内容、同人につき右後遺障害に基づく将来の看護費を必要とすることは、前叙認定説示のとおりである。

(2) 原告やゑ本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告幹雄の前叙介護のため脱脂綿(費用一か月約金二〇〇〇円)、おむつ(費用一か月約六〇〇円)、導尿のためのビニール袋(費用一か月約金一〇〇〇円)、掻便用手袋(費用一か月約金二〇〇〇円)を必要としていることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(3) 右認定各事実に基づけば、原告幹雄の介護に必要な右雑費も、右認定の限りで、前叙将来の看護費について認定説示したのと同じ理由により本件損害と認めるのが相当である。

(4) しかして、本件損害としての右雑費の金額は、一か月当り金二八〇〇円で一九年分(根拠は、将来の看護費の場合と同じ。)と認めるのが相当である。

(5) 右認定説示に基づき、将来の雑費の現価額をホフマン式計算方法にしたがつて算定すると、金四四万〇六九八円となる(円未満四捨五入。新ホフマン係数は一三・一一六。)。

2800円×12×13.116≒44万0698円

右認定説示に反する当事者双方の主張は、当裁判所のとるところでない。

(八)  家屋改造費 金九五万四〇〇〇円

(1) 原告幹雄の本件後遺障害の残存及びその内容、同人の本件症状固定後の生活状況等については、前叙認定のとおりである。

(2) 原告やゑ本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告幹雄は本件症状固定後同人の四男弘宅に身を寄せ、それに伴い同人宅を原告幹雄の前叙生活内容に適応させるべく改造しようとしたこと、原告やゑが右趣旨を大工に相談したところ、同人から、右家屋の便所、風呂、部屋の入口、廊下等を右趣旨に改造しようとすれば右家屋の一階部分全部を取壊わさなければならない旨の応答を得たこと、そこで、原告等は、右家屋の改造を諦め、別に建築中の家屋を購入し右家屋の建築途中でその構造に注文をし原告幹雄の前叙生活内容に適応した構造を持つ家屋にしようと考え、当時現住所地に所在し建築中の一戸建建売住宅を購入したこと、原告等は、右家屋の建築途中で、売主に対し右趣旨の注文をし、右注文に応じた構造(便所、風呂場に車椅子が入れるようにし、部屋の入口廊下を車椅子で通れるようにした。)の現家屋を完成させたこと、右家屋の元々の価格は金二三八五万円であつたところ、原告等は、右家屋の売主に対し、値引き交渉をしたが、右売主から、右家屋は原告等の右注文に応じた施工をしたのであるから値引きはできない、元々の価格で買つて欲しい旨要請され、右購入代金は結局右金二三八五万円のまま決定されたこと、右家屋には原告等二人が居住し生活していることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(3) 右(1)、(2)で認定した各事実を総合すれば、原告幹雄の現住家屋中同人の生活内容に適応するよう設計施工された部分は、既存家屋の同旨改築とその実質において替らず、かつ、右部分の建築に要した費用は、原告幹雄の本件後遺障害の内容からして必要不可欠の費用と認められるから、右費用も本件損害と認めるのが相当である。

(4) しかして、本件損害としての右費用の額は、弁論の全趣旨から右家屋購入代金金二三八五万円の五パーセント相当の金一一九万二五〇〇円を下らないと認められるものの、右家屋に原告やゑもともに生活し右家屋設備を共有していると推認される点を考慮すると、金九五万四〇〇〇円の限度で、これを認めるのが相当である。

(九)  叙上の認定説示から、原告幹雄の本件損害の合計額は、金七九二一万三六八二円となる。

2  原告やゑ

慰謝料 金二〇〇万円

(一)  原告やゑが原告幹雄の妻であること、原告幹雄の本件受傷内容、その治療経過、同人の本件後遺障害の存在及びその内容、同人の将来にわたる生活状況、それに対する介護の必要性とその内容等は、前叙認定のとおりである。

(二)  原告やゑ本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告やゑが原告幹雄の本件受傷後現在に至るまで同人と生活をともにし終始一貫同人を介護していることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(三)  右(一)、(二)で認定した各事実を総合すれば、原告やゑは、原告幹雄の妻として、本件事故により、原告幹雄が生命を害された場合にも比肩すべき、又は右場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けたと認めるのが相当であるから、自己の権利として慰謝料の請求をできるというべきところ、右認定各事実を総合すれば、原告やゑの本件慰謝料の金額の算定は金二〇〇万円と認めるのが相当である。

二  そこで、過失相殺の抗弁について判断する。

なお、原告等は、被告等の本件過失相殺の抗弁につき、仮に原告幹雄に本件事故発生に対する過失が認められ右過失を本件損害額に当り斟酌するならば、後叙損害の填補における労災保険給付金との関連で先ず右労災保険給付金を控除した後に過失相殺をすべく主張している。

しかしながら、労災保険金給付の趣旨は、労災事故による労災労働者の損害の填補を目的とするものであり、したがつて、損害賠償の一般法理により、過失相殺の後に控除すべきであると解するのが相当であるから、原告等の右主張は採用しない。

1(一)  本件交差点が交通整理の行われていない交差点であること、原告車と被告車が衝突して本件事故が発生したことは、前叙のとおり当事者間に争いがない。

(二)(1)  前掲甲第三九ないし第四三号証、第四四号証の一ないし一〇、第四五、第四六号証、第五一号証、原告幹雄本人、被告山田本人の各尋問の結果(ただし、甲第四六号証の記載内容中及び原告幹雄本人、被告山田本人の右各供述中後示信用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

(2)  本件交差点は、ほぼ直線状をなす東西道路と南北道路が交差している交差点で、東西道路の西行き線が一方通行である。右東西道路の幅員は、右交差点に至るまで車道三・八メートル、北側歩道一・六メートル、右交差点通過後車道三・九メートル北側歩道一・五メートルであり、右南北道路の幅員は、右交差点に至るまで車道四・二メートル東側歩道一・一メートル、右交差点通過後車道四・四メートル東側歩道一・〇二メートルである。(なお、右各車道と歩道の区別は白線でなされ、車線区分はない。)右交差点の見通しは、右東西道路を西進した場合も、右南北道路を北進した場合も、進路左右前方の見通しのみが建物にさえぎられ不良である。

本件事故当時、本件交差点の東側入口路上にも、南側入口路上にも、一時停止の標識は存在しなかつた。

なお、本件交差点の交差道路は、平坦なアスフアルト舗装路で、本件事故当時の天候は晴、路面は乾燥していた。

(3)  原告幹雄は、本件事故直前、時速約二〇キロメートルの速度で、本件東西道路を西進し、本件交差点東側入口付近に至つたが、そのままの速度で右交差点内に進入し右交差点の中心付近から東方約三・八メートルの地点まで進行した時、初めて右交差点南方から右交差点内に進行して来る被告車を認め、とつさに原告車のハンドルを右に切り加速して被告車の前方を通過し衝突を避けようとしたが間に合わず、原告車の左後部と被告車の右前部とが衝突し、本件事故が発生した。

なお、原告幹雄は、本件事故当時ヘルメツトを着用していなかつた。

(4)  右認定に反する甲第四六号証の記載内容部分及び原告幹雄本人、被告山田本人の各供述部分は、前掲各証拠と対比してにわかに信用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(三)(1)  右認定各事実及び前叙認定にかかる原告幹雄の本件受傷の部位程度を総合すると、本件事故の発生には、原告幹雄の原告車を本件交差点に進入させるに際し減速ないし徐行して自車前方左右の安全を確認し右交差点内に進入通過すべきで注意義務に違反した過失及びヘルメツト不着用の落度が寄与しているというのが相当である。

よつて、原告幹雄の右説示にかかる所謂過失は、原告等の本件損害額を算定するに当り斟酌するのが相当である。(なお、原告やゑについても、同人が原告幹雄と夫婦である身分上原告幹雄と一体をなすとみられるような関係に立つ故、原告やゑの本件障害額を算定するに当つても、原告幹雄の右過失を斟酌するのが相当である。)

(2)  しかして、原告幹雄の右過失割合は、前叙認定説示のほか原告車の車種をも考慮して全体に対し二〇パーセントと認めるのが相当である。

よつて、被告等の過失相殺の抗弁は、右認定説示の限りで理用がある。

(四)(1)  ところで、右過失相殺は、原告幹雄の本件総損害額について行うのが相当であるところ、原告幹雄の右総損害額は、前叙認定にかかる金七九二一万三六八二円に本訴で請求されてはいないが既払分であることについては当事者間に争いのない同人の治療費金三〇万三六六〇円を加えた金七九五一万七三四二円というべきである。

(2)  そこで、原告幹雄の右認定にかかる本件総損害額並びに原告やゑの前叙認定にかかる本件損害額を、原告幹雄の前叙過失割合で所謂過失相殺すると、原告等の本件損害額は、次のとおりとなる。

原告幹雄 金六三六一万三八七三円

原告やゑ 金一六〇万円

三  次いで、損害の填補の抗弁について判断する。

1  抗弁事実中原告幹雄が本件事故後被告等主張の金員を受領したことは、当事者間に争いがない。

2  しかしながら、右受領各金員中次の各金員については、これ等を本件損害の填補と認めることができない。

(一)  訴外関西信用金庫関係分

原告幹雄が右信用金庫から受領した金四〇二万八七九〇円と金六五一万一八八八円については、これを本件損害の填補と認めるに足りる証拠はない。

かえつて、弁論の全趣旨から真正に成立したものと認められる甲第五五号証及び弁論の全趣旨によれば、右金四〇二万八七九〇円は、右信用金庫関係者が原告幹雄の本件事故後の生活状況を見かね臨時措置として給与の仮払をしたものであるところ、その内金五四万〇六七五円は、原告幹雄が昭和五八年一二月二二日受領した政府労災保険休業補償給付金五四万〇六七五円で返済されたこと、右金六五一万一八八八円の授受に関する経緯は次のとおりであること、即ち、右信用金庫では、右信用金庫の従業員が労災事故により死亡するか重度の後遺障害が残存した場合右従業員に対し見舞金として交付する目的で、訴外日本火災海上保険株式会社と労災総合保険契約(契約者右信用金庫、被保険者右信用金庫従業員、受取人右信用金庫。)を締結していたところ、原告幹雄の本件後遺障害が確定した時点で、右信用金庫は、右保険会社に対し、金一〇〇〇万円の保険金請求をし、その交付を受けたこと、右信用金庫は、右保険金受領後、右保険契約締結の趣旨に則り、右保険金金一〇〇〇万円を原告幹雄に見舞金として全額交付したこと、右信用金庫は、右交付した金一〇〇〇万円の中から、原告幹雄より、同人の右信用金庫に対する右給与仮払金返済残金三四八万八一一五円の返済を受けたことが認められ、右認定各事実に基づくと、原告幹雄が右信用金庫から交付された給与仮払金は全額返済されているし、同人が右信用金庫から受領した保険金は、損害填補の性格を有さないというべきであるから、被告等の右各金員に関する主張は、全て理由がない。

なお、被告等の、原告幹雄が本件休業中右信用金庫から給与を受けていたから休業損害は存在しない旨の主張も、右認定説示から理由のないことが明らかである。

(二)  労災保険給付関係

原告幹雄が受領した右保険給付中少なくとも次の各給付金は、本件損害填補の対象とならないというべきである。蓋し、右各給付金については、代位取得の規定がなく、又、各給付金は労働福祉行政の一貫として支給されるものであつて、損害の填補を目的としたものでないと解するのが相当だからである。

(1)休業特別給付金金七六万四九五五円(2)傷害特別支給金金一一四万円(3)傷病特別年金金四一万七九〇〇円(4)定額障害特別支給金金二二八万円(5)障害特別年金金四四万七一〇〇円 合計金五〇四万九九五五円

(三)  右認定説示から、原告幹雄の本件受領金の内本件損害の填補となる金員は、次のとおりである。

(1) 被告会社(保険会社を含む。)分 金四八八万四三六〇円

(イ) 治療費 金三〇万三六六〇円

(ロ) 看護費 金二五九万二九〇〇円

(ハ) 内金 金一九八万七八〇〇円

(2) 自賠責保険金 金二〇〇〇万円

(3) 労災保険給付分

休業補償等 合計 金六八六万六一六五円

(なお、右労災保険給付分については、原告幹雄において、右各金員を本件障害の填補とする旨自認をしている。)

(4) 右認定説示を総合すると、原告幹雄の前叙認定にかかる本件損害金六三六一万三八七三円から右損害に対する填補として控除すべき金額の合計額は、金三一七五万〇五二五円となり、右控除後の原告幹雄の本件損害額は、金三一八六万三三四八円となる。

ただし、右障害の填補中労災保険給付分金六八六万六一六五円については、右金員の性格が労働者の蒙つた財産上の損害の填補のためのみに行われるものであつて、精神上の損害の填補の目的を含むものでないと解されるから、右金員は、原告幹雄の本件損害の内財産的損害金四八〇九万三八七三円から控除する。

よつて、被告等の損害の填補の抗弁は、右認定説示の限度で理由がある。

四  弁護士費用 原告幹雄分 金三二〇万円

原告やゑ分 金一六万円

成立に争いのない甲第三七号証の一ないし三及び弁論の全趣旨を総合すると、原告等は、被告等において本件損害の賠償を任意に履行しないため、弁護士である原告等訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任し、その際相当額の弁護士費用を支払う旨約したことを認められるところ、本件訴訟追行の難易度、その経緯、前叙請求認容額等に鑑み、本件損害としての弁護士費用は、原告幹雄につき金二九〇万円、原告やゑにつき金一六万円と、認めるのが相当である。

五  結論

1  以上の次第で、原告等は、被告等に対し、各自、原告幹雄において本件損害合計金三五〇六万三三四八円、原告やゑにおいて同損害合計金一七六万円及び右各金員に対する本件事故の日であることが当事者間に争いのない昭和五八年七月六日から右各支払ずみまで民法所定年五分の割合による各遅延損害金の各支払を求める権利を有するというべきである。

2  よつて、原告等の本訴各請求は、右認定の限度で理由があるから、その範囲内でこれ等を認め、その余はいずれも理由がないから、これ等を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用して、注文のとおり判決する。

(裁判官 鳥飼英助)

事故目録

一 日時 昭和五八年七月六日午後〇時三〇分頃

二 場所 神戸市中央区神若通二丁目一番一号先交通整理の行われていない交差点

三 加害(被告)車 被告山田昌太(以下被告山田という。)運転の普通貨物自動車

四 被害(原告)車 原告松本幹雄(以下原告幹雄という。)運転の原動機付自転車

五 態様 本件交差点を西進通過しようとしていた被害車に、右交差点を北進中の加害車が衝突

以上

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